学芸員という生き物について

博物館で生業を立ててる人のはなし。

【くらし】あと10万円あればなあ…

これから学芸員をめざす人のために

つくづく思うのだけれど、学芸員という仕事は、結婚とか子育てといった“人生の節目”には、本当に向いていない気がする。もちろん、仕事そのものは好きだし、やりがいもある。展示を企画したり、資料を調べたり、文化的な価値を社会に伝えていくという点では誇りを持っている。でも、こと「生活を支える仕事」という視点になると、とたんに頼りなさを感じてしまう。

最初にこの仕事に就いたときの給料なんて、本当にぎりぎりの生活だった。趣味も外食も控えて、ようやくひとり分の生活ができるくらい。今でも、その延長線上にいるような気がしている。昇給がないわけではないし、長年の経験が少しずつ積み重なってはいるけど、それでも「人を養う」というレベルには到底届かない。現実問題として、自分ひとりの稼ぎでは、子どもを持って三人家族になる未来がどうにも想像できないのだ。

だからこそ、今になって妻とも何度も話し合っている。「本当に子どもを持つのか?」「生活はどうするのか?」って。理屈で考えれば簡単で、収入があと10万円増えればなんとかなる、という計算にはなる。けれど、その“たった10万円”が、実際にはすごく重い。副業をするにも時間がないし、非常勤の仕事を探す余裕もない。土日も展示の準備や研修で潰れることもあるし、通勤だけで一日が終わってしまうこともある。

たとえば今から他の業種に転職したとして、果たして自分は役に立つのだろうか、という不安もある。文化系の専門職で長くやってきた自分に、一般企業での即戦力としてのスキルがあるかどうか…正直わからない。それでも、もし家族を守るために必要なら、動くべきなのかもしれない、という気持ちもある。そう思えば思うほど、頭が重くなる。

この先の人生をどう設計していくのか。誰かと人生を共にするということは、ひとりでは抱えきれない現実とも向き合っていかないといけないのだと、あらためて感じている。今はまだ答えが出せない。でも、いつか必ず決断しないといけない日が来る。できればそれが、誰かを犠牲にするような選択ではないことを願っている。